富山に来て3年目、関東にいた頃とは生活が一変した事がいくつかある。
その中でも特に変化した事を挙げるとすれば、車を運転する(出来る)ようになった事だろう。
以前車が砂浜にハマってしまった話を載せた時にも少し触れたが、僕は富山に来て免許を取った。
車に一切の興味が無く、車の必要性を感じない生活を送ってきた僕は、「免許を取る」という大人の階段の一つとしては割とスタンダードなイベントを経ないまま生きてこれてしまった。
ただ富山では車は必須である。死活問題だ。
なのである種強制的にでも教習所に通えたのは重い腰を上げるきっかけになったのでとても良かった。
前置きが長くなったが、という訳で生活の足として今は車がかなりの比重を占めている。
そんな中、自分で車を運転するようになって気付いた事がある。
運転の際に着るジャケットだ。
車の運転をはじめ、どんな状態でも楽に動けて着心地が良いというのがビスポークというものの最低条件だと思っている。
なので自身の服の着心地を確認する上でもジャケットを着用しての運転というのは必要事項ではあるが、いざ運転してみるとそれとは違う部分が気になってしまった。
シートベルト。
運転をするようになり初めて3点式シートベルトを長時間したのだが、ジャケットを着ているとラペルの上をベルトが丁度通るのである。
うまくラペルのロールより上にベルトがくれば良いが、場合によってはロール辺りにちょうどベルトが当たるので、シルク混のラペルに嫌な感じのシワが入ってしまう事があった。(これは乗っている車やポジションによるかもしれないが)
また、運転中は背もたれに背中が常に付いている。
ジャケットの着丈を考えると丁度背もたれと座席の角に後ろの裾がぐちゃっとなるか、背中の腰辺りにシワが出来る。
普通のウールや厚手の生地ならまだ多少回復するが、シルクやリネン、コットンなどのシワができやすい素材の場合はなかなかこのシワが取れない。
後ろのシワはどんな椅子でも起こってしまう事象ではあるが、普通の着席なら気になった時に少し身体を前に出して背もたれから離すことが出来る。
しかし運転中はそうもいかない。言うなれば背中や後ろ裾がシワになった状態で常に自分の体温というアイロンを押し当てているようなものである。
これらは車を運転して初めて気が付いたことだが、着心地とは別の部分でこんな問題があるとは思いもよらなかった。
なので最近はジャケットは脱いで運転しているのだが、脱がずに運転も出来て外にも出られる上着があると便利だなとぼんやり考えていた。更にデニムにもウールスラックスにもカジュアルにもタイドアップにも適応出来ると尚良い。
そんな折、ふとリーバイスのデニムジャケット(70505)をウールスラックスと合わせて着る組み合わせを思い出した。
あの形なら着丈が短いので後ろ裾がシートに干渉することはないし、テーラードではないのでラペルにシワが付くこともない。
運転には最適だ。
という訳で70505モチーフのジャケット、所謂トラッカージャケットをビスポーク仕立て且つシンプルに落とし込んだものを作ってみた。
生地はスペンスブライソンのアイリッシュリネン100%でグリーンがかったグレー。目方は350g/mほど。デニム地ではストレート過ぎるがしっかりした生地の方が良いので肉厚なリネンを使用した。
フロントの切り替えは横のみにし、胸ポケットは左のみフラップ無し。ただ、脇ポケットは付いている方が便利なので70506モデルのように縦の両玉縁仕様に。(着用してみた結果胸ポケは両胸あった方が良い)
袖口や背面の切り替え等の仕様はモチーフを参考に。
ボタンはジーンズボタンではなく濃いグリーンのコロッツォボタン。
ボタンを留めた図。
画像ではほぼ分からないが、ステッチもハンドで入れている。
勿論ビスポーク故フロントには毛芯が据えてある。
襟芯のハ刺しも手で刺しているので、デニムジャケットのカジュアルな緩い丸みのある襟というよりかは少し硬い雰囲気に。
この辺りは好みになると思うが、襟は着ていくと芯がどんどん柔らかくなっていくので経年変化を楽しみたい。
と、まぁプロトタイプ的に作ってみたが実際着用しての運転はやはり楽だ。テーラードジャケットで起こった気になるシワも付かない。
また、肉厚なリネンなので着ていく上でのシワも良い雰囲気になっていくと予想。
生地は手持ちの中から選んだ故に少し地味ではあるが、その分スタイリングの幅は広い。
しかし、同じリネンならベージュやタバコブラウンの方がもっと良い雰囲気かなとも思うし、冬物なら柄のあるツイードなんか凄くこの形との相性が良いだろう。
トラッカージャケットというのはそれこそいたる所でさんざん擦り倒されてきた定番の形ではあるが、その形をビスポークするというのも一興ではないだろうか。