ボタンには様々な種類があるが、紳士物で使用される代表的なものとしてまず浮かぶのは水牛ボタンだ。英国系の仕立てによく使われている印象である。
イタリア系の仕立てはコロッツォ、所謂ナットボタンをよく使う印象だ。
僕が以前いた職場でもコロッツォがメインで水牛ボタンはほぼ使っていなかった。
そしてコロッツォの次に多かったのが貝ボタンである。
以前の職場にあったイタリア製貝ボタンは濃紺で、それが絶妙にシックな色合いで初見の時は結構衝撃だった。
というのも日本の資材屋で売っている紳士物の貝ボタンは黒蝶貝や白蝶貝といわれる貝そのままの色のものがほとんどだからだ。
もしくは淡い水色やピンクなどレディース向けに染められたもの、もしくは貝に装飾が施されているちょっと昭和感のあるボタンなら売っている。
イタリア製の貝ボタン一つとっても「ああ、やはりヨーロッパはスーツ文化の本場なのだなぁ」と偉く感心した。
それからというもの僕の中では夏物のネイビージャケットやネイビースーツには濃紺の貝ボタン一択である。
なので、独立にあたって貝ボタンの仕入れをどうするかというのが一つの課題となった。
6、7年前に日本の貝ボタンを作っているところに染めをお願いした事もあったのだが、それは正直出来がいまいちだった。
ただ、技術や情報の進歩著しい昨今なので数年ぶりに改めて探してみたところ、求めていたものに近しい色合いのものがあったのでひとまず1セット購入してみた。
しかし、いざ実物を見ると濃紺というかはブルーに近く、綺麗な色合いではあるもののスーツや濃紺ジャケットには少し合いづらいかなぁというのが率直な感想である。
、、、という話を友人にしたところ、貝ボタンを好きな色に染められるところがあるという。
以前失敗した経験が頭をよぎったが、ものは試しと依頼してみる事にした。
数週間後出来上がった貝ボタンが届き、いざご対面。
...良い。
期待よりかなり良い。
とは言え、サンプルとして渡していた色味よりは若干暗く紫がかった紺になっていた。
友人曰く、染め屋さんが染める貝の種類をこちらの指示とは違うものにしてしまったとの事。
が、その間違いが逆に角度によって紫にも濃紺にも見える絶妙に奥行きのある色味になっている。
なんという怪我の功名。怪我の功名とはこの時以外に使う場面が無いのではというくらい怪我の功名だ。
という訳で、なんやかんやでかなり満足のいく世界に一つのオリジナル濃紺貝ボタンが出来上がった。
是非ネイビージャケットやネイビースーツに使っていただきたい。