万年筆が好きである。
きっかけは6年程前の前職時代にお客様との会話の中で、有名なペン先調整の人に調整してもらった万年筆の書き味が凄いという話を聞いた事だった。
「力を入れなくても字がスーッと書けるんだよ」と聞き、そんな事があるのかと思った。
というのも、それより何年も前に人からウォーターマンの万年筆を頂いた事があり、その万年筆が全然上手く書けなかった(インクが出ない)ので万年筆というのはそんなものなのかと思っていたからだ。
その後お客様がその噂の万年筆を持ってきてくださり、試しに書かせてもらった。
衝撃だった。
まずペン先が紙に接触していないかのような感触。紙の上をペンが0.0何ミリか浮遊しているのかと思う程だ。
なのにきちんと字が書ける。書けるというかぬらぬらとペンが勝手に進むというか。
新しいおもちゃを発見したようなワクワクが胸を襲う。
その夜すぐに高級万年筆やボールペンの販売店で働いている先輩N氏にその旨を連絡すると「いや、そもそも万年筆ってそういうものだから笑」と言われてしまった。
となると、僕が持っているウォーターマンがイレギュラーなのかと思い、後日詳しく話を聞くためにN氏と飲みに出かけた。
そこで初めて万年筆の構造を聞き、力を入れて書くものではない事を知る。そしてウォーターマンを見てもらうと少しペン先が開いている事が分かった。思い返すと、以前上手く書けないからと何度も力を入れて書こうとしてしまった事を思い出した。元々筆圧が強めの僕が更に力を入れたのだからそりゃ上手く書けるわけないのである。
お客様に書かせてもらった時は、何かあっちゃいけないと普段より軽く書いたのが逆に幸いしていたのだ。
そこから色々と調べるようになり、あれよあれよと踏み込んでいくようになった。
色々見た結果僕は現行品より50年代~90年代頃のものが好みで、且つそこまで高くない(1万円程度で買える)ものがチープ感があって良く、そんなものをいくつか収集した。
書き味などそれぞれに個性があったりインクの吸入方法も色々あり中々面白い。
そんな話をまた別のお客様にしていたところ、その方も一時期ハマっていたと言う。
更に言うと万年筆本体というより最終的にはインクの方にハマっていたらしい。俗に言うインク沼だ。
僕はまだインクに関してはそこまで興味が無かったのだが、その方が特にハマっていた「ドクターヤンセン」という名のインクの話をしてくれた。
そのインクは昔ながらの製法でドイツで手作りされており、イタリア製の瓶に入っているという。更に色ごとに偉人の名前が付けられていて、手作りなので供給量も少ないとのことだ。
「ドイツ製」「昔ながら」「手作り」「イタリア製の瓶」「供給少ない」
また僕のレーダーに反応してしまった。
それは是非とも手に入れたい。
すぐに調べて有名文具店に取り扱いがあったので早速買いに行った。
そこは全種類置いてあるわけではなかったがいくつかはあったのでその時欲しかったグリーン系の「ショパン」を手に入れた。
帰ってすぐに試してみたが、これが色が良い。落ち着いた雰囲気のある色味と、サラサラのインクは渇きも早い。
他の色も試したくなる。そんな風に思っていたある日、このインクを教えてくれたお客様がお土産をくれた。
大き目の箱だ。中を開けるとヤンセンインクが何本も入っているではないか!
驚きながら何事か聞くと、今はもう沼っていないけどインク自体がまだたくさん余っているからと集めたヤンセンをくださったのだ。
これは嬉しい!廃盤になったものもある!
それはそれは有難く譲り受け、ヤンセンインクが一気に揃うこととなり、晴れてインク沼にもハマったのだった。
その後万年筆も少しづつ買ったり、有難い事に色々な方から頂いたりもして収集はまだ細々と継続中である。
古いものも相変わらず好きだが、今はノック式の万年筆が物凄く使いやすいと耳にし、現行は現行で興味があったりもする。
左からペリカン、デラルー、モンテローザグレー、モンテローザ黒、モンブラン144ボルドー
モンテローザはモンブランの廉価版だが、昔の小学校などで子供用として使われていたという。
上はプラチナの1000円万年筆。1000円と安価だが、使ってなくてもインクが全然固まらない機構なので久しぶりに使っても普通にインクがサラサラと出る。かなり優秀である。
下は年代、メーカーともに不明だが外観がシルバー925。スチールニブだが書き味は悪くない。
ドクターヤンセンのインクの一部。時期によって箱やラベルのデザインも微妙に違う。