仕立て屋という職業にとって鋏は一番大事な道具だと思う。

極端な話針と糸と鋏があればどこでも服は縫えるが、その中で一生物の道具は鋏だ。

それゆえ扱いには気を使い、自分の手に馴染んだ鋏は替えが効かない唯一無二の存在である。

日本の鋏で特に有名なのは東鋏と呼ばれる東京近辺で作られる鋏で、その中でも最高峰は「長太郎」だ。

僕もこつこつと長太郎の鋏を集め現在3本所有しているがこの鋏の個人的に凄いと思うところは、何かの拍子に軽く落として嚙み合わせが悪くなっても、そのまま使っていると自然と元の状態に戻っているのだ。(刃が欠けてしまったらダメだが)。普通少しでも噛み合わせが悪くなると砥ぎ直しに出すのだがこれは全然研がなくても切れ味が変わらないのである。鋏自体が呼吸しているような感覚というか。

最高峰と呼ばれる所以がそんなところにもある気がして、使うたびに職人技の素晴らしさを実感する。

上から古い順。上は15年ほど前にプレゼントでいただいた初長太郎。中は8年ほど前に購入で一番小さいサイズ。下は7年ほど前に裁断用として購入した一番長い全長約28センチの総火造り。これは独立したら使おうと決めていたもので昨年から裁断の際に使用している。総火造りのため一番軽い。

総火造りと刃の部分だけ叩いて作られる2種類あるが、切れ味はどれも変わらず良い。

もう新品は手に入らなくなっているのでより大切に使わねばと思う。